指揮者の通信講座2

指揮者の通信講座2

ではどうやって音楽を感じればいいのか?

映画「ピンク・パンサー」で有名なピーター・セラーズの主演作品に「Being There」(邦題:「チャンス))という映画があるのを貴方はご存じだろうか?

この物語は、ピーター・セラーズ扮する主人公”チャンス”が、「庭師」の息子として生を受けた後、父親が住んでいたお屋敷の「庭師小屋」から、ただの一歩も屋敷の外には出たことがなかった、という設定で始まる。
チャンスは父の死後、父から教わった庭師の仕事を引き継ぐのだが、それから数十年の時を経て、雇い主が他界したのをきっかけに、生まれて初めてお屋敷の「外の世界」を知ることになる、という筋書きだ。

画像の説明

●「自分だけの世界」は真実の入り口!

それまでチャンスにとっての世界とは、
自分の生まれ育った「お屋敷の庭」だけだった。

彼はいつも屋敷のなかに居て、学校も知らなければ、
いわゆる教育というものは全く受けていない。

普通ならそのことをハンディキャップと感じるはずだが、
既に初老の彼にとって、他に友人もいなければ
自分と比べる相手もいない。

つまり「自分の世界」が彼の全てだったのである。

そんな彼がお屋敷の門をくぐり、外に出た瞬間のことだ。
お屋敷前の駐車場に止まっていたはずの
大きなロールスロイスが突然動き出し、
門から出てきたチャンスはそれと知らずに
軽くその車と接触した。

車というものを見たことのないチャンスだから
驚いてバランスを崩し、その場で倒れ込んでしまった。

ロールスロイスの運転手は慌てて外に飛び出すと、
チャンスを抱え込んで車内へと誘導した。
すると、そこには素敵な貴婦人が待ち構えていたのだ。
シャーリー・マクレーン扮する「大統領夫人」だった。

ことを穏便に済ませたい「夫人」は、自宅にチャンスを迎え入れ
医者を呼んで、チャンスの受けた傷の治療にあたらせた。

幸いケガはかすり傷程度。何事も問題はなかった。
ここからチャンスの新しい人生が始まる。

●自分の世界に例えてみたら...

もちろん「大統領公邸」に居れば、アメリカのトップ政治家たちが
毎日のように訪れて来る。そこで行われる議論は
同じ屋根の下に住んでいるチャンスの耳にも届くようになった。

そんなある日のこと、チャンスは大統領が悩み苦しんでいる場に
遭遇する。次の政策が決まらずに、思い悩んでいる大統領に向かって
庭師としての仕事から得た「自然界の森羅万象を見る眼」
で感じた世界観を、チャンスはその独特の語り口で話し始めた。

と言っても彼が何か難しいことばを話すのではなく、
極めて簡素でシンプルな言葉しか使わない。

大統領はその話を聞きながら、今自分が悩んでいる問題について
チャンスの意見を求めてみた。すると彼は

「庭にたとえるなら、今は秋の収穫の時期だ」

と答えたのだ。

その「庭師の目線で」自然からヒントを得た喩え話こそが、
困り切っていた大統領にとっては
次の政策を決めるための、非常に大切な羅針盤となった。

こうして彼は「庭師」から、
大統領補佐官のようになっていくわけだが
ちょっと不思議な言葉遊びと、その展開が極めて面白い映画と言える。

是非一度ご覧あれ。
きっとあなたのお気に召すだろう。

ここで得られる教訓とは何かと言えば、

ズバリ ,「自分の感性で捉えた世界」を信ぜよ!ということ。

わたしは先ほどご紹介したパオロの「天候と感性」の話を聞きながら、
ピーター・セラーズ扮するこの「庭師」のことを思い出していた。

実際私はここ数年、異業種の分野の方々と接することが多く、
その業種は多岐に亘っている。ジャーナリスト、作家、花屋、空手家、落語家、
絵描き、軍事専門家、政治家、経済評論家など普段話す機会がない人達ばかりだ。

彼らと話す時間は、何より刺激的な学びのチャンスなのだが、
彼らのうち多くは、私という音楽家と話すときに、
「私は音楽については門外漢ですが。。。」と謙遜されながらも、
音楽について、自分の仕事を通じて得た見識を使いながら、
誰よりも見事に、また深く理解してくれているようだ。

落語家は落語家の立場から、花屋は自然ついての見識を通じて、
音楽の本質に肉薄していく。

ひょっとすると、そうやって彼らのように
音楽を「自分の場所」から眺めることさえできれば、
むしろ音楽の方から、自分に向かって近づいてくるのではないか?
私はそう思うのだ。

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